筑波大学大学院 受験記 (情報学)

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1. はじめに

2020年秋に筑波大学大学院 人間総合科学学術院 人間総合科学研究群 情報学学位プログラム 博士前期課程を受験した。筑波大学大学院では2020年4月から大学院組織が大きく再編され、新体制下の受験記・合格体験記が殆ど存在しないため、ここに受験記を残そうと思う。

なお、今回の改組によって筑波大学大学院では「学位プログラム」が導入され、専攻名が分かりにくくなっているが、私が受験したのは「情報学」の学位取得を目指す修士課程である。メディアで大活躍されている落合陽一先生がいらっしゃる専攻といえばピンとくるかもしれない。

プロフィール

私は「4工大」と呼ばれる自称中堅工業大学群に属する大学の4年生。n=2。情報学の中でもガチのコンピュータ・サイエンスではない情報マネジメント系領域を扱う研究室に所属している。

出願時点で特に学会等での実績はなく、意識高いプロジェクトやらボランティア等への参加経験もない普通の学生だ。出願時の成績はGPA 3.6で、悪くはないけどすごく良くもないスコアだった。

2. 外部院進を決めるまで

かねてから研究者(企業研究者、アカデミア問わず)になりたかったので、少なくとも修士は出ておこうと思っていた。自分自身の研究能力はそんなに高くないという自覚はあったが、伝記に出てくる偉大な科学者や、今通っている大学の先生方のような研究者になりたいという憧れが院進という選択を後押しした。

退路を断たれた

では、どの大学院に進むのか。まず検討すべきは内部進学だ。現在の学部の指導教授との仲は良好で、この先生のもとで修士論文を書くのも悪くないと思っていた。だが、先生は「君は外部大学院へ行け。できれば海外が良い」と私に助言してきた。一般的な大学教授なら、自らの研究室に大学院生が1人増えるように仕向けるだろうし、それが職務上当然のことだが、この先生は違った。学生のレベルがあまり高くないこの大学が「ぬるま湯」であると断じた上で、「君はここにいて良い人間じゃない」と言ってきた。普段人を褒めないタイプの先生が私を評価した上で、外の世界へ飛び出せと言ってきたのは私の心を大きく動かした。

その後も、研究者を志すなら外部大学院を目指しなさいという助言を何人かの大人から頂いた。それを真に受け、外部大学院の研究領域をいろいろと調べたところ、私の研究したい分野を深めるならば外部大学院進学が良いという結論に至った。

3. 筑波に出願を決めるまで

どこにしようか

指導教授の先生は海外で博士号を取得したので、その影響で当初は大学院留学を検討した。だが、英語力(TOEFL)の問題だけでなく、資金面の目処がつかず、さらにCOVID-19によって海外渡航が難しくなったので諦めた。無茶ができる若いうちに海外経験を積みたかったという想いがあり、やや心残りではある。

情報学 + 社会学な領域を研究したかったので、国内大学院でまず候補に上がったのは慶應義塾大学大学院の政策・メディア研究科だ。いわゆるSFCの直属の大学院で、情報系の学際研究では定評がある。江ノ島を有する藤沢市は住み心地が良さそうだし、キャンパスはコンクリート打ちっぱなしのル・コルビュジエ風の現代建築で格好いいし、慶應という大学名は日本において絶大なる信頼があるという副次的な要素にも惹かれた。問題点は学費で、私立大学だけあって年間で100万円台半ばの授業料がかかる。もちろん、今通っている私立大学の大学院に進学しても学費は高額となるが、内部進学なので入学金免除 + 相当額の授業料減免を受けられる。

学費を考えるとやはり国立だ。石川県にある北陸先端科学技術大学院大学、通称JAISTも有力な候補だった。知識科学の祖と呼ばれる野中郁次郎博士が設立に関わった大学院で、知識科学や情報系の研究に関して相当な実績を上げている。田舎に立地するというのがデメリットではあるが、そもそも私は長野県出身なので、加賀百万石、金沢を有する石川県は都会ではないかとすら思えた。学会や就活のために首都圏へ出にくいという懸念もあるが、COVID-19の賜物、オンラインカンファレンス・オンライン面談が今後ますます普及しそうなので、大した問題ではないだろう。

暗闇の説明会

筑波大学大学院が候補に浮上したのは、大学4年の5月に大学院説明会へ参加してからだ。あまりレベルが高くない私立大学に通う私にとって、日本有数の研究型大学である筑波大学大学院を受験することは、考えてもいなかった。大学入試(学部)で筑波大学の情報系を受験したことがあったため、筑波に私の研究内容とマッチする研究室があることは分かっていたが、受験しても合格する確率は限りなく低いと思われ、「まぁ念の為話だけ聞いておくか」と大学院説明会に参加しただけだった。

COVID-19禍のため、説明会はオンラインで実施された。大学院の担当者の方が、なぜか暗い部屋から配信を行っていたのが印象的だった。真っ暗な部屋に座り、PCのモニターの明かりによって顔だけが照らされている。さながらホラー映像といった様相でただならぬ雰囲気を感じる。なんというか、ステレオタイプ通りの「筑波大学」を感じた。閑話休題、私はこの説明会で初めて、筑波大学大学院の情報学学位プログラムに推薦入試制度が存在することを知った。推薦入試は所定の成績を修めている者、或いは優れた研究業績を持つ者が対象で、一般入試よりも1ヶ月早く入試が行われる。試験の内容自体は一般入試と大きく変わらないが、成績で足切りしているため倍率は低くなると予想される。ザックリ自分の成績を計算したところ、推薦要件を満たしていることが分かり、筑波大学大学院の受験を検討し始めた。 

推薦入試を受験するためには当然推薦状が要る。忌まわしきCOVID-19により大学事務がストップしていて、推薦状がスムーズに発行できない恐れがあったため、説明会終了翌日から筑波大学と自分の大学の事務に問い合わせて、推薦状を手配した。推薦状の推薦文は当然指導教授にお願いした。先生自ら外部大学院へ行けと言っていたので、快諾して下さった。早期に動いたことで、出願までに余裕を持って推薦状を取り寄せることができた。

推薦入試は、合格した際には筑波大学大学院への入学を確約することが出願条件なので、受験するか最後まで悩んだ。先程挙げた、政策・メディア研究科、JAISTはどちらにも捨てがたい魅力があり、これらの大学院も受験する場合は推薦ではなく一般入試に回ることになる。それぞれの大学院の研究室についてよく調べ、最終的に筑波大学を第一志望にするのが良いだろうという結論を出した。

4. オンライン指導教授面談

先述の理由で、筑波の推薦入試に出願するか否か最後まで迷った。私には妙な潔癖癖があり、物事を決断してからでないと動けない。推薦に出願するか否かに関係なくとりあえず筑波の先生に連絡しておけば良いのにそれをせず、出願締め切りの1週間前に、志望指導教授の先生に初めてコンタクトをとった(アホ)。メールを出したのは、私の研究分野に関連する2人の先生で、一方の先生からは数時間後に返信が来て、翌日Zoomで面談をしましょうということになった。

ギリギリの出願許諾

事前に研究計画書と、学部の成績証明書やら卒業見込証明書何やらの出願に必要な書類をメールで送付した。面談では、それらの書類を見ながら話した。自己紹介、なぜ高校卒業後ブランクがあるのか、学部の研究テーマは何か、などまずは簡単な質問に答えた。その後、研究計画に関する突っ込んだ質問を受け、「それ意味ないんじゃないか」「この手法を知らないのか」といったややネガティブな意見を頂戴した。ちょっと圧迫面接気味かもしれない、と思ったが、よくよく考えてみれば普通だった。アカデミックな議論というのは建設的な批判から始まる事が多く、それを私も理解していたつもりだったが、研究業績を積んだ偉い先生と話しているという緊張感から、ネガティブな言葉に敏感になっていたのだ。

気を取り直して面談を続ける。事前にこの先生の論文や著書は読んでいたので、それらについて触れながら自分の研究について話した。終始あやふやな受け答えだったにもかかわらず、私の研究したい内容は理解してもらえ、趣味の話で盛り上がったりもした。最終的には「この研究内容だったらうちの研究室が良いでしょう」と出願の内諾を頂くことができ幸いだった。この出来事は、私の人生のターニングポイントになったかもしれない。ここで出願の承諾が得られなければ、私は筑波大学大学院を受験することは無かっただろう。

博士行かないの?

もう一方の先生からは数日後に返信が来て、やはりZoom面接をして頂く運びとなった。こちらの先生は小説に出てきそうな感じの、いかにも教授という風貌だった。論文をペラペラめくりながら、「君のやろうとしている研究は、なかなか難しいねぇ」とおっしゃり、先生の研究室で行っている研究をいくつか紹介してくださった。先程の先生とは違って、私に対する質問は少なく、先生の方からいろいろとお話を頂けた。同じ大学の先生であっても、研究者にはいろいろなタイプがいるのだと感じた。一通りの会話を終えると「うちの研究室でも君の研究計画は実行可能だけど、先に面談した先生の方がより相応しいかもしれないねぇ」という見解を頂いた。続けて「それでも、こっちの研究室が気になるなら私を副指導教員にすればいい。ゼミ生以外でも、いつでも研究室に来ていいからね」とおっしゃって頂けた。先程面談した先生も、今回の先生も私の出願に前向きな意見をくださり、筑波の先生はいい人ばかりで良かったと思った。

これにて面談はお開きかと思ったが、「ところで君は博士課程に進むのかい?」と先生は尋ねてきた。突然の質問に少し驚いたが、資金の目処がつけば博士課程にも進学したいと考えていたので「はい、しかし『茨』の道ですよね」と答えた。筑波大学が「茨」城県に位置することにかけた高度なジョークはスルーされ、博士課程に対する先生の考えを聞かせて下さった。人文学系学問とは異なって、情報学においては博士号取得は研究者の最初の入口だからぜひ博士後期に進むべき、インターンや社会人をやりながら博士課程に在籍する学生もいるので資金面もなんとかなるのではないか、と教えて下さった。先生は大変多忙であるはずなのに、どこの骨とも分からない突然連絡をよこしてきた私に対して約30分間に渡ってキャリア形成に関する助言を下さったのだ。

面談して頂いたどちらの先生も研究室訪問・面談をの域を越えて、一人の人間として向き合って頂けたという印象が強く、先生方の懐の広さのようなものを感じた。筑波の大学院に通いたいという気持ちはより一層強くなった。

5. 面接練習

推薦入試は、事前に研究計画書や履歴書等の書類を提出し、面接試験で合否が決まる。研究計画書については研究室訪問の際に先方の先生からOKをもらっているので、問題は面接だ。私は面接試験対策として、通っている大学の就職課を頼りにした。学部の研究室の先生には研究計画等の相談に乗ってもらっていたが、面接に関してはその道のプロである就職課のキャリアコンサルからアドバイスをもらうことにしたのだ。

私の大学の非常勤のキャリアコンサルタントの方が、ちょうど社会人大学院に通っていたので、当事者として大学院入試に関する実践的なノウハウを教えて頂けた。また、別のキャリアコンサルタントの方も、大学院入試に関する見識があり、研究計画を添削して頂けたのは非常にためになった。国立大学に関しては分からないが、私立大学は総じて就職支援に力を入れていて、敏腕のキャリアコンサルタントが所属していることが多いので、就職だけでなく院試においても頼りになる。

6. オンライン面接

※ 面接試験に関する内容は、情報学学位プログラムのwebサイト、及び募集要項にて一般公開されている範囲で記載する。

オンライン面接の儀式

指定された時間に面接会場のZoomのミーティングルームにアクセスした。カメラの向こうには大学院のスタッフの方(おそらく入試課の職員さん)がいて、受験番号と名前を告げて受付を済ませる。

面接に先立ち、不正行為が行われていないかを確認される。オンライン面接ならではの儀式だ。まずは、イヤホン等で外部と通信していないことを確認するために、両耳をカメラに向ける。私は短髪なので特段問題なかったが、髪が耳に掛かる場合は事前に結んでおく必要がありそうだ。補聴器等を利用している者は事前に申請しておくことになっている。なお、今回の面接では、Zoomの通話にイヤホンを用いてはならず、スピーカーを使うよう指示されている。

次に、webカメラを持ち上げ、360°周囲を写すように促される。ラップトップの内蔵webカメラを使っていたので、PCごとカメラを回転させた。PCをドッキングステーションに接続していたので、取り外しにやや手間取った。試験前というのは緊張しているので、この程度のちょっとしたもたつきにナーバスになった。

今度は手鏡をwebカメラに向けるように指示される。これは、こちらが写している映像が事前に用意されていたビデオ等ではなく、本当にwebカメラを通した映像なのか確認する意図があるのだと思う。私が用意していた手鏡が小さく、「これちゃんと見えてます?」「だい..大丈夫です」なんてやり取りを職員さんとして、若干緊張がほぐれる。

最後に、Zoomの画面共有機能を使ってこちらのPCのデスクトップを共有して準備完了。これは、試験中にPCを使った不正行為(第三者と連絡をとったり、ググったり)を防止するためだと事前に説明された。

静かなる待機室

「準備はこれで以上です」と告げられ、試験開始まで10分ほど待たされた。試験前の10分間はとてつもなく長い時間に感じる。それは宇宙の始まりから終わりよりも長い永遠の時間。窓の外からは近所の工事の音が聞こえてくるはずなのに、緊張と集中が入り混じった状態では聞こえてこない。Zoomの接続は当然継続されているので、ストレッチをしたり立ち歩いたりして緊張をほぐすのはよくないと思い、頭の中で研究計画のプレゼンを繰り返した。One more thing… これは、違う、別の人のプレゼンだ、などとしょうもないことを考えて無理やり落ち着こうとした。

3人の面接官

試験時間になった。職員さんに「それでは面接室へご案内します」と言われ、面接官が待つミーティングルームへ移動した。カメラ越しに映し出された教室には、長机の前に3人の先生が横並びになって座っていた。オンライン入試に切り替わる以前の募集要項には、プレゼン資料のコピーを3部持参するように書かれていたので、面接官が3人というのは予想通りだ。それぞれの先生の間にはパーティションが置かれており、いかにもwith COVID-19な風景だった。そういえば、「With コロナ」という言葉はこの大学院に所属する落合陽一先生の発祥らしい。

事前に知らされていたとおり、まず冒頭5分で研究計画のプレゼンを行い、残りの15分で質疑応答を行うという流れだった。プレゼンは、事前に用意してきたPowerPointのスライドショーをZoomで画面共有して行った。私はプレゼンが得意ではないが、場数はそこそこ積んできたので、1mmくらいの自信はあった。高校時代は生徒会長で何かと人前で話す機会があったし、大学でもグループワーク等で何度もプレゼンをした。決して派手な身振りで注意をひくこともないし、滑舌が良い訳でもないが、真面目に、誠意を持ってプレゼンをした。プレゼンをしているうちに、自分でも気づかぬうちに、緊張はなくなっていた。緊張を取り除く唯一の方法は、何かに没頭することであるが、話すことに集中しているうちに緊張はどこかへ行ってしまった。

素人質問で恐縮ですが

私のプレゼンが終わると質疑応答に移る。学会の質疑応答に近いような雰囲気で、面接官の先生方が純粋に疑問に思った点を淡々と質問してきた。受験生の人格や研究能力、学力を試してくるような質問は無かった。意地悪な質問、突拍子もない質問も一切なく、当然圧迫面接でもなく安心した。

質問は、お決まりの「専門外で恐縮ですが」「素人質問で恐縮ですが」のオンパレード。知の爆発の時代を迎えた現代は研究分野の細分化が進んでおり、例えその学問分野の先生であっても、少し専門領域が異なるだけで「素人」になってしまうのだ。

3人の先生は1人ずつ順番に質問してきた。まずは右端に座っている先生のターン。「研究内容は把握できましたが、修士課程では具体的にどのようなスケジュールで行うのですか?」「調査のサンプル数はどの程度ですか?」といった質問を受けた。とても基本的な質問だったが、研究計画の具体性、計画実現性を問う意図があったのだと思う。

続いて左端の先生のターン。「研究方法と研究目的が一致していないのではないか」「その研究で結局何がやりたいんだ」といった、基本的でありながら本質的な質問を繰り返してきた。質問に対する私の回答に納得していないようで、先生はさらに質問を続けてきた。私は的はずれな回答をしてしまったのだと理解し「それは、〜〜〜というご指摘でしょうか?」と聞き返した。それに対して先生は「いや、そうじゃなくて〜〜〜」と、疑問点をより丁寧かつ明確に話して頂けたので、今度は的確な返答をすることができた。このようなやり取りを繰り返したので、この先生の質問時間が最も長かったと思う。

ラスボス戦

ラストは3人目の先生のターン。いままで約15分間口をつぐんできた中央に座る先生が、クリティカルな質問を投げかけてきた。「あなたの研究計画に出てきた<概念A>と<概念B>の違いは何ですか?」という質問だ。今までの2人の先生方は、研究「計画」に関する質問だったのに対し、この先生は研究「内容」に関する質問だった。お決まりの枕詞「素人質問ですが」が無かったので、私の研究分野に関して見識の深い先生なのだと思う。今までとは毛色の違う質問で一瞬ひるんだが、このような概念レベルの検証は先行研究のサーベイで幾度となく行ってきたので、答えは頭の中で完成されている。あとはそれを正しく伝えるだけだ。できるだけ分かりやすく、表現をかさねて、丁寧に説明することを心がけた。実は、このような質問は以前、現在の指導教授の先生からもされたことがあり、「あ、これ進研ゼミでやったところだ」状態だった。卒業研究を真面目にやっていてよかったと思うと同時に、研究者というのは、別の大学に勤める異なるバックグラウンドを持った人同士であっても、同じ思考回路を持って同じ質問をしてくるのだという、一種の感動を覚えた。

先程も書いたが、受験生を試すような、しょうもない質問は一切なく、建設的な質疑だった。そのおかげで、普段、大学の先生と会話するのと同じように話すことができたと思う。こういう愚直にアカデミックな雰囲気は、私は嫌いではない。

あやうく再試験

3人の先生の質問が終わり、中央に座るのラスボス先生から「これで試験は終了です」と告げられた。最後に「音声や映像が乱れるなどの問題がありましたか」と聞かれたので、バカ正直に「マイクに近い先生の声はよく聞こえましたが、遠い先生の声は聞こえづらいことがありました」と答えた。すると、「その不具合によって試験に支障はありましたか?」と聞かれたので「ありません」と答え、「それでは失礼します」とZoomから退出した。

実際のところは、3人横並びになって座っていた先生のうち、中央の先生の前にマイクが置かれていたので、両サイドの先生の声は聞こえづらかった。聞こえづらいときはPCのスピーカーに耳を近づけたので、変な体制で面接を受けている私の様子が、カメラ越しに先生方に見られていただろう。私が聞こえづらそうな仕草を見せると、先生方は大きな声で話してくれたので、大きな支障はなかった。もし、「不具合によって試験に支障はありましたか?」という質問に対して「イエス」と答えていたら、再試験になっていただろう。今回の面接では、技術的問題によって試験が正常に受けられなかった場合の再試験時間が事前に設定されているからだ。

話が脱線するのでこれ以上技術的問題には突っ込まないが、今回のZoom面接で筑波大学が用意したマイクは指向性の強いタイプで、マイクの正面以外の音を拾いにくかったのだと思う。複数人が1つのマイクを囲む場合は、ミーティング向けスピーカーフォンを使うのが定石なのだが、突如とした社会情勢の変化に伴うオンライン面接の導入で、機材の選定に時間を割くことができなかったのだと想像できる。新しい入試形態なので、このようなトラブルは仕方ないだろう。

面接を終えて

想像以上に淡々と終わったというのが正直な印象だった。先生方からの質問は、ベーシックなものばかりだったし、私の返答もまた普通だった。今回の面接試験の出来に点数をつけるなら80点くらいではないかと思う。何か大きなミスをした訳ではないが、面接官の心をグッと掴むような素晴らしい返答をした訳でもない。言葉のキャッチボールを成立させるという観点で80点だが、満点に至る要因もないというのが正直な自己評価だ。

受験番号から推測するに、今年度入試は明らかに昨年度より志願者数が増えていて、このような終始フツーな返答繰り返した面接試験で合格を得たという確証は得られなかった。一方で、何もミスはしてないのに不合格にされてもたまったもんじゃない、とも思った。要するに、落ちても受かっても文句はない、という心境だった。

院試のことで頭が一杯な上、COVID-19自粛も重なり、ここ数週間引きこもりがちだったので、面接終了後家の周りをランニングした。9月の空は晴れ渡り、街を車が行き交う。院試に向けた準備をしている頃は、自分のことに精一杯だったが、世界なんて自分がいなくても回ってるんだなぁと思った。帰り道に、普段は絶対買わない500円くらいするオレンジジュースを買って、自分のご機嫌を取った。

面接試験の数日後、志望する研究室の先生から、入試は如何でしたか、というメールが届いた。出願締切直前に突然連絡をよこしてきた非常識な学生だと思われていたらどうしようと考えていたが、先生の方からメールを送ってくださったので、合格した際には研究室に迎え入れてくれる準備があるのだろうと安心した。

7. 合格発表

豆腐メンタル

合格発表当日の6:00。自粛生活により体内時計が乱れており、普段ならこんな時間に絶対起きない。しかしながら、ストレス性の胃痛に起こされた。私は普段、周囲の人々がドン引くレベルの相当な楽観主義者だが、この日ばかりはそうではなかった。

我ながら、なかなかの豆腐メンタルだ。先程サラっと書いたが、私はn=2、即ち大学浪人を2回した末、志望校に合格できず4工大に収容された経歴を持つ。人生のターニングポイントと成り得る大事な試験に、今まで何度も何度も何度も落ちてきた。志望した学校に入学できたのは9年ほど前の高校入試が最後で、完全に負け癖がついている。今回も落ちるのではないか、そもそもこの世に合格という概念は存在しているのかすら疑わしい、という恐怖感でストレス性胃腸炎を発症したのだ。

湘南海岸へ

筑波に落ちたら、慶應の藤沢キャンパスに気持ちを切り替えようということで、最寄り駅から電車に乗り込み、フラ〜っと湘南海岸を目指した。午前10:00、七里ヶ浜の海岸沿いの国道を歩きながらスマホで合格発表を確認する。最近は、合格発表サイトに自分の受験番号を打ち込むと合否が返されるシステムを採用する大学が多いが、筑波大学大学院はPDFで合格者の受験番号を発表している。筑波大学のwebサイトにアクセスし、合格者発表のPDFを開くと、自分の受験番号を見つけることができた。思ったより感動が薄い。自分は他の一般的な受験生より2年も長く生き、2年余計に勉強しているのだから合格して当然だろうと思えてきたし、大学院に入学しても無事修了できる自信も無かったので、喜ぶことはなかった。本当の闘いはこれからだ。

コーヒーが沁みる

推薦で筑波に合格したことで、慶應の藤沢キャンパスへ通う可能性は無くなった。とっとと湘南海岸を撤退し、Wi-Fiを求めて鎌倉駅前のルノアールに入る。まず、筑波大学の志望教員の先生に合格の報告メールを送る。先生からは、合否が判明次第連絡をください、と言われていたからだ。すぐに先生から返信があり、おめでとうございますの言葉と、入学までの間は卒業研究に打ち込んでくださいとのメッセージを頂いた。

続いて、学部の指導教授の先生にSlackを飛ばす。こちらの先生からもやはり、卒業研究頑張りましょうと返信が返ってきた。2人の先生から卒業研究について指摘されたが、これは「燃え尽き症候群になるな」というメッセージだと私は解釈した。

さらに院試に関してお世話になった大学職員、キャリアコンサルタントの方々に一通りメールを送ったところで、冷めてしまったルノアールのコーヒーを飲んだ。朝から胃痛がしている中で飲むコーヒーは染みる。心に沁みるのではなく、胃に染みる。私の大学院合格は、七里ヶ浜の風景と胃痛と共に記憶に刻まれた。

8. 地獄の始まりか

茨の道、茨城へ至る道

多大な研究業績を誇る大学院から合格を頂けたことはとても有り難いことだが、周囲のレベルについていけるのか、ハイレベルな世界で論文を通せるのか、今から本当に不安である。しかし、これは自ら選んだ茨の道である(茨城県だけに)。

それに加え、大学院の学費と生活費の資金繰りもどうにかしなくてはいけない。社会人になるのが2年間遅れ、2年分の年収を失うのに学費を払う立場にあるというのは、やはり経済的に痛い。しかし、金銭的理由から大学院へ進学しないという選択肢を取ったら一生後悔するだろうと思う。おそらく、死ぬ間際にやりたいことをやらなかった後悔に苛まれ、死後は怨霊となって現世を漂うことだろう。

要するに、大学院に進学してもしなくても何かしらの後悔がつきまとう。人生所詮そんなものなのだ。どちらも茨の道だとしたら、多少面白そうな道、即ち大学院進学を選ぶのは合理的な選択ではないかと思う。

圧力団体と後日談

私の通う大学では、外部大学院進学者が少数派なので、良くも悪くも目立ってしまう。合格が分かってから数日して、日頃から親しくしている職員さんや、先生方からは「修士なんて当然受かるものと思ってたよ。そんなことよりその後の進路をどうするかが重要だよ」という趣旨の大変心温まるメッセージを頂いた。さらに、「ところで博士課程はどうされるのですか?」「博士課程こそは海外ですよね、そのころにはCOVID-19も収まっているでしょうし」「君の分野なら博士は東大の学際情報学府が良いんじゃないかな」などと、もうどこから突っ込んだら良いのか分からないようなご意見も承っている。なかなか飛躍した意見ではあるが、一学生たる私のキャリアを案じてご助言下さるのは大変に有り難い。

そのような圧力団体の皆様からの意見を真摯に受け止め、日々、博士後期課程に進学した場合の資金繰りを計算しているが、例え特別研究員に採択されるという奇跡が起きたとしても、博士後期課程3年間の授業料 + 生活費を賄うのは難しいと思われる。筑波の先生にご助言いただいたように、社会人博士という道もあるが、博士課程に通いながらの就労を許してくれるような超優良企業に就職できるか分からない。全国の博士学生の方々は一体どうやってやりくりしているのか気になるところだ。親しくしている大学の先生数人は、博士学生時代に結婚して奥さんに養ってもらってたと言っていたが、まさかそれがアカデミアの常識なのか。

9. 院試対策という観点

受験記と言いながらややエッセイ調になってしまったので、大学院入試対策という観点でまとめておく。

「院試対策」という概念があるが、今回の入試においてその必要性は殆ど感じなかった。それは、筑波大学の情報系だけでなく、慶應の政策・メディア研究科やJAISTに関しても同様だし、さらに言えば、世の中の大半の大学院についても同じことが言えるだろう。なぜならば、大学院は研究を行う場所であり、入試テクニックは求められていないからだ。院試で要求されるのは、研究能力だが、これは日々の研究(学部生なら卒業研究が中心となるだろう)によってのみ鍛えられる。故に、院試対策のために特別なことをする必要はなく、熱心に研究活動に取り組むのが一番だろう。ただし、専門職大学院や東大レベルのトップスクールはこの限りではなく、専門の院試対策が必要と思われる。

このような前提に立った上で、今回私が大学院入試を経て得た教訓をピックアップしておく。

  • GPAは上げておいて損はない。しかし、GPAは楽しいウェイウェイ学生生活とトレードオフ。優秀な研究者の多くは友達が沢山いてユーモアに富んでいるので、ただ単にガリ勉なら良いという訳でもない。
  • 所属研究室の先生(学部の指導教員)に外部大学院進学についての見解を聞いておく。もし先生と仲が良くなければ、推薦状の問題もあるので早めに別の味方(教員)を探すべき。
  • 研究室訪問は早めに行く。遅いと大学院の先生に迷惑がかかる。まじで。
  • 多くの大学に推薦入試制度が用意されているので、入試情報を常に仕入れ、自分が受験できるものがないか探す。
  • 推薦状発行は早めに。
  • 院試対策講座などに手を出す場合は慎重に。院試予備校はまだしも、ネット上で散見される怪しげな院試対策個人塾は要注意。そういったものに頼る前に、自分の所属大学の先生や、志望大学院の先生を頼ろう。
  • 相談できる大人はたくさんいたほうが良い。指導教授だけでなく、他の先生や就職課の職員、インターン先の上司など、頼れる人を沢山見つける。そのような人たちと議論を交わすことで自然と面接や質疑応答に必要な力は身につく。
  • 所属大学のレベルが低くても、n=2でも不利にはならない。大学院には社会人学生もいるし、問われるのは経歴よりも研究能力なので、所属も年齢も関係ない。逆に、良い経歴だから有利に働くかも不明。研究業績はあるに越したことはないだろうが、学部生なら無くても問題ないと思う。
  • 日頃の研究(卒業研究など)の練度が高いほど院試でも有利。院試のために特別な勉強をするより、卒研に真面目に取り組む方が費用対効果が高い。これが私からの一番のメッセージ。

10. おわりに

研究者はかっこいい

筑波大学ラブな雰囲気を出しておいて、他大学の言葉を持ち出すのは恐縮だが、東工大大学院の入学希望者へのメッセージを最後に紹介したい。いろいろゴチャゴチャ書いてきたが、大学院を目指す上で最も大切なことは当然、学問への情熱と研究者への憧れだと思う。こういうメッセージを見て「かっこいい(語彙力低下)」となってしまう感性を持つあなたは研究生活に向いているはずだ。

世界はいまだ謎に満ち、課題にあふれています。(中略)真理の探究と幸せの追求をかけた人類のあくなき挑戦。その壮大な歩みに、あなたは仲間入りしようとしています。

「誰も見たことのない未来をつくりだせ」東京工業大学 入学希望者へのメッセージ

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